読書感想文!「列」
『列』

文学賞には疎いのだが、新しく通うようになった図書館は入ってすぐに直近の各文学賞受賞書籍が平置きで陳列されており、やはり目に付く。たいていの本は貸出中で豪快な歯抜けになっているのだが、残された歯の中に「野間文芸賞」受賞作『列』が目に止まり、思わず手に取る。無知を明け透けにすれば私は「野間文学賞」たる賞を知らなかったので、この賞がどのような作品を評価するのか知りたくなったのもあるし、また、いかにキャッチーなタイトルをつけて読者の興味を引くかを競っている近年の出版業界において、『列』という無骨なタイトルに逆に興味をそそられたのもある。著者は中村文則氏。

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長めの無駄話

私は高校生くらいまではよく本を読んだ。思春期を拗らせすぎた関係で特定の友人以外とは全く人付き合い出来ず、ダメ高校生特有の「無限かと思うヒマ時間」のほとんどを読書と深夜ラジオに費やした。が、大学進学で上京して一変。堰き止められていたダムから豪快に水が溢れ出たような、明らかに多寡な「人付き合い」にさらされ、すっかり読書は忘却の彼方へ。以来約二十数余年、全然本を読まない生活を続けていた。

潮目が変わったのは色々あった昨年から。重い腰を上げて勉強や読書を再開したのだが、生来の性格上、自己啓発本だけでは気が滅入る。逃避先をくれ。おいらに安寧のフィクションをくれ!祈るように現代小説の本棚を眺めたが、最近の作家はどの名前を見ても全くピンとこない。そんな中、ある本が目に止まる。『教団X』。著者は中村文則という存じ上げない作家。しかしビンビン来るものがある。迷いなく借りたその分厚い本は、エロく、儚く、思慮に富んでいて、そして大変面白かった。

あっすみません何が言いたいのかと言うと、「読書ブランクのある馬鹿が読んでも、中村文則の作品は面白いよ」という事を言いたいのです。執筆にあたって、その分野の専門家を凌駕する程、事細かに資料の調査・読み込みをしているのが文脈からひしひしと感じる・・・頭の中どうなってるのよ(誉め言葉です)。あと「人」を「性」と絡めて描写させたら、この方の右に出る作家はそうそういないと私は思っています。そんな感じのとにかくすごい作家。

長い

『列』読書感想文!

『列』中村文則 著 講談社

その列は長く、いつまでも動かなかった。
先が見えず、最後尾も見えなかった。何かに対し律義さでも見せる様に、奇妙なほど真っすぐだった。

3頁、152頁等から引用

本書をかっこよく言えば、人間の存在というものを『列に並ぶ』という特徴的なシチュエーションで形而上学的に表現した作品。とかになるのだろうが、そういうのは専門家に任せてざっくり説明。この本は「思想的な仮想世界(ただ「列に並んでいるだけ」の世界)」と「現実世界」を交互の描写し、最後はそれら(「仮想世界」と「現実世界」)の境界が曖昧になって終わるという、まあこれ系のストーリーではよくあるパターン。最近読了した『ハイパーたいくつ』(松田いりの:著)と、ストーリーの構造的には同じ(そういえば読書感想文書くの忘れてる!)。ある意味王道の構造な故に作家の腕が試される訳だが、心配ご無用面白い。

「人間」と言う、粗雑で、暴力的で、理不尽に性欲が沸き上がり、猜疑心と、虚栄と、欺瞞に満ちた生き物が、『列』という無機質で無感情な物を、「無自覚に」形成している滑稽さが何とも痛快。冒頭引用した『列』の特徴を強調するシーンは、この小説内で幾度となく出てくる一文。最初は「ふーん」、最後は「うーむ」・・・全く持って救いが無い。いや救いらしきものが最後提示されるが、それすらも『列』は飲み込んでしまう。

主人公は猿の研究者。もちろん猿を観察しているのだが、ストーリーが進み「仮想世界」と「現実世界」が入り混じるようになると、果たして観察対象がどちらなのか不明になってくる。結局、どちらも同じなのだ。人も猿も。「猿みたいですね」。主人公が思わず呟く言葉に私はぞっとする。猿と同じ私達人間は、それでも猿達の冷ややかな視線を浴びながら、列に並んでいる。もはや「列に並ぶこと自体が目的になっている」かのように。何という皮肉。

皆様も是非本書を手に取って、中村文則氏の描くシニカルな世界をご堪能下さい。時間はあります。あなたの並んでいる『列』はどうせ動かないし、抜けても違う『列』に並ぶだけなんですから。

150頁程度の本なので、遅読の私でも3日くらいで読めました!お勧め!

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