読書感想文!「汝、星のごとく」
汝、星のごとく

「何度親父を殺そうと思ったか分からない。けど何度シミュレーションしても、殺した親父の傍らで泣いている自分がいて、出来ない」。

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中学生の頃

私が中学生の頃、だいたいいつも一緒にいた男友達の中で、今で言うところの「シングルファザー」の友人がいた。カタカナで書くとかっこよく聞こえるが、実際は彼の母親は父親の暴力に耐えかねて出て行ったのだ。彼「以外」の弟妹を連れて。彼の父親は小指が無かった。つまり「元その道」の人。まともな定職に就かず(就いても長続きせず)、度々過剰なアルコールを摂取しては家族に暴力をふるった。友人も「顔の腫れが酷いから」と、度々学校を休んだ。

私達は週末になると、いつも決まった3人で酒盛りをした。私、彼、そしてもう一人の友人3人。私達は覚えたてのタバコをふかし、『尾崎豊』をかけ、とにかく値段の安さ重視で『RED』をあおり、そしていつもメンツが足りない3人麻雀をした。「彼がどうすれば自由になれるか」を真剣に話し合いながら。

私は言う。「(もう中学生で)ある程度力もあるし、酔っぱらった親父に反撃して殺しちゃえばいいんじゃね?」。今にして思うと不穏だが、最適解に聞こえた。

いつも飲み場を提供してくれたもう一人の友人が突っ込む。「殺した後捕まったら自由になれないじゃん」。それもそうだった。

議題の中心である彼の答えは、冒頭に記した。私達は沈黙し、明日がどうなるかなんて一切気にせず、「不味い」としか思わない『RED』をあおり続けた。

中学生だった私達にとって、日々理解を越えるスピードで肥大し続ける世界は、もはや手に余るものになっていた。後の人達はそれを「思春期」と言うのだろうけれど、当事者たちには分からない。私達は必死に「自由」を欲したけれど、もはやその「自由」が何かすら分からなかった。

汝、星のごとく

汝、星のごとく

『汝、星のごとく』 凪良ゆう:著 講談社

俺たちは親につかまれた手を離せない。振り払ってしまえれば楽なのに、それがわかっているのに、俺たちは、どうしようもなく、愛を欲している。

ー95頁より引用

「2023年本屋大賞受賞」とのシールが貼られた本書が目に止まり、図書館で借りた。今私は新たな資格勉強に取り組み始めたが、どうも気が乗らず無為に時間を消費していた。家に持ち帰り、何となしに本書を読み始め、気付いたら深夜になるまで一気に読み終えていた。久しぶりの高揚感。読みながら私は冒頭の中学生時代を思い返していた。本書には間違いなく「当時の僕ら」がいた。

本書は男女2人の主人公が、それぞれ問題を抱える親という切れない鎖に縛られながらも、その中で「自由」を求める15年間の物語だ。境遇の似た2人は急速に惹かれ合い、しかし時の流れと共にすれ違い、離れ、そして今度は「お互い」に縛られる。

自由をくれよ。救いをくれよ。

馬鹿みたいな願望を込めながら私は頁を進める。彼らは解き放つことが出来たのか。いやそもそも鎖を解き放つこととは何なのか。「自由」とは。

彼女は選んだ。

幸せになれなくてもいいのだ。

ああ、ちがう。これがわたしの選んだ幸せなのだ。

わたしは愛する男のために人生を誤りたい。

わたしはきっと愚かなのだろう。

なのにこの清々しさはなんだろう。

最初からこうなる事が決まっていたかのような、この一切の迷いのなさは。

ー310頁より引用

彼は気付いた。

出会ってから今まで、暁海をあの島に縛りつけていた様々なもの。暁海があの島で紡いできた様々なもの。それら丸ごと抱えて暁海は俺の前に座っている。だったらもう観念するしかない。

なにをどうしても俺には暁海だったし、暁海には俺だった。

長い時間をかけて、散々失敗をして、わかったのはそれだけだ。

なんて単純なのだろう。

それは、もう、愚かなほどに。

ー318頁より引用

それだけが彼らにとっての救いであり、自由だった。私は安堵する。自由とは自分自身で選択するもの。たとえそれがどんなに愚かであったとしても。

ーああ、夕星。

昼と夜のあわいの中で瞬く星に一日の終わりを重ねて惜しむのか、もうすぐ訪れる夜を待ち遠しく想うのか。たった一粒の星ですら見方がちがう。わたしはこれからどんな選択を繰り返していくのだろう。どうか、それをまっとうしていけるようにと星に願った。

ー329頁より引用

今、私は選択できているか。まっとうできているか。私は「あの頃の私」に胸を張って答えることができるだろうか。

「あの頃の僕ら」にも読ませてあげたかったなぁと、私は泣きながら本書を読了した。

本屋大賞獲るくらいだから、本書が良書である事なんて今更私が綴る必要もないくらい当たり前の事だけど、やっぱりいい本はお勧めしたい。

自分の選択を愚直にまっとうしている全ての方へ。あるいは選択に自信がなく、どうしても一歩を踏み出せない方へ。是非本書を読んでみて下さいね。

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