
私たちは結婚する。
月並みの交際期間と月並みのプロポーズを経て、それが決まったある年の暮れ、私は2か月後に戸籍上の配偶者となる女性と都内の街を歩いていた。世はクリスマスシーズン。賑やかな喧騒の中、私たちは人混みを掻き分け、ほてほてと歩く。
ほてほて。ほてほて。
私は右手、彼女は左手、手を繋ぐ。左手の紙袋にはデパートで買った厚手のコートが入っている。私の冬服を買うはずで出掛けたのに、気付けば彼女の服に変わっている。「おかしいなぁ」と呟きながら、私は彼女と初めて二人きりで出掛けた日の事を朧げに思い出す。
「御飯がいつも余っちゃう」。
カレーライスを食べながら彼女はそう言った。良いのか悪いのか、私は御飯とルー、両方が同時に無くなるよう調整しながらカレーライスを食べる。彼女はいつもご飯が残る。それはつまり「ルー多め」の自分の配分を決して譲らないからだ。それを指摘すると、彼女はこう答えた。
「そんな事気にしながら食べたら、カレーライスが全然美味しくないじゃない」。
その思想はカレーライスだけじゃなく、彼女の生き方全てに貫かれている哲学だった。
「美味しいか、美味しくないか」
「楽しいか、楽しくないか」
本質を見失って妥協する人生を、彼女は決して選ばない。カレーライスを食べながら、何とも眩しく、私は彼女を見つめた。

ほてほて。ほてほて。
残ったご飯を持て余していた彼女の姿を思い出し、「くすっ」と笑った私に、彼女が尋ねる。
「どうかしたの?」
私は答える。「君は変わっているね」と。
彼女はきょとんとした顔になり、立ち止まって話す。
「そうよ、知らなかった?私、変わってるの」。
白い息を吐き、彼女は続ける。
「だって、あなたと結婚するんだから」。
彼女はニコッと微笑み、繋いでいた左手に力を込めた。私たちはまた、歩き出す。
ほてほて。ほてほて。
「この歩みが、ずっと続きますように」。私は駅前の派手なクリスマスツリーを見上げ、精一杯の願いを込めた。
そしてその歩みは、約20年経った今も続いている。

「いただきます!」
今夜はカレーライス。私と息子は御飯多め。家内はルー多め。
「叶うかなぁ・・・」。
サンタさんへの手紙を吊るしたクリスマスツリーを眺めながら、息子がぼそっと呟く。
ルー多めでもなお御飯を余らせた家内が、ルーを追加する為、席を立った。
私は微笑みながら、確信を込めて息子に応えた。
「きっと叶うよ」。











