Dandelion -タンポポにまつわるお話‐
道端のタンポポ

タンポポを見ると、少しセンチメンタルな気分になります。

春の散歩道

朝晩はまだまだ寒いが、晴れた日の日中は随分過ごしやすい気候になってきた。冬の間すっかり葉を落とし、その存在を隠すかのように沈黙していた通勤途中の街路樹も枝先から新芽を出し始めている。すれ違うリクルートスーツに身を包んだ新社会人達の集団は、まだ同期との距離感が掴めていないのか、ぎこちない会話をしながら足早に信号を渡っている。向かいから歩いてくる散歩中のバーニーズドックマウンテンの足取りも、心なしか軽やかだ。何か急ぎの用事があるのか、慌てた様子でスマートフォンを掲げて写真撮影をしている人がいる。レンズの先には、満開の桜。数枚撮って満足したのか、晴れやかな表情で足早にコンビニへ入っていく。そこかしこに漂う春の匂い。それぞれにとって新しい何かが始まる季節。私の心は少しズキズキする。歩道の端にふと目をやると、誰にレンズを向けられることもなく、タンポポがひっそりと咲いているのに気付いた。そう、あの時槙君と一緒に歩いた駅までの通学路の脇にもタンポポは咲いていたのだ。

高校時代の回想

高校最後の春、放課後の教室はいつもと違う喧騒に満ちていた。思春期を拗らせ、高校時代友達はおろかまともに周りの生徒と話すらできなかった私は、イヤホンを耳につけ一人本を読んでいた。名前順に一人ずつ進路指導室に呼ばれ教師から発破をかけられて帰ってきた生徒達は、各々愚痴を言い合いながら、気の合う友達の進路相談が終わると数人単位で帰っていった。名字の関係上、私は大抵のクラスで一番最後になることが多く、このクラスも例外ではなった。私の一つ前の生徒が教室に戻ってきた。すでにこの頃には大半の生徒達は教室を後にしており、残された生徒達は私以外の数人で固まってお喋りをしているだけになっていた。

私に友達はいない。

私が教室に戻ってくる頃にはこの教室は空になっているだろう。イヤホンからMONGOL800の「Dandelion」が聞こえる。当時爆発的に売れていた彼らの2ndアルバム「MESSAGE」の中でも特に私が好きな歌だった。私は本に栞を挟み、イヤホンを外して進路指導室へ向かった。

教室に帰ってくると、誰もいないはずの教室に一人槙君がいた。はにかんだ顔で「一緒に帰ろう」と槙君は言い、私は照れ臭さが悟られないよう出来る限りぶっきらぼうに返事をし、駅までの道を一緒に歩いて帰った。何を話したかは覚えていない。ただ、道端にタンポポがいっぱい咲いていた事と、最後まで槙君に大事な一言が言えなかった事だけが、20年以上経った今でも鮮明に覚えている。駅から乗ったバスの中で、私は少し泣きながらまた「Dandelion」を聞いた。

We are walking

We can walk together

We are smiling

We have smiling our face

ーMONGOL800「Dandelion」より引用

息子との会話

タンポポの写真を撮りながら私は思う。なぜ私はあんなに不器用だったのだろう。差し出された多くの手を、せめて少しだけでも握り返すことが出来ていれば、人生はもっと生きやすかっただろうに。

隣を一緒に歩いていた息子が、綿帽子となったタンポポを摘んだ。私は、窮屈になった息子の手から手提げカバンを預かった。息子が私に言う。

「ありがとう」。

私は少し照れ臭そうに、「どういたしまして」と応え、息子と一緒に綿帽子を吹いた。

今でもたまに聞いています。全部いい曲!

Message [ MONGOL800 ]

さすがに満開だったので、桜も載せておきますね。

香川にゃんこさんを応援する

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 人気ブログランキング人気ブログランキング
おすすめの記事