ブルーハーツなんて知らない
ラバーソール!

先日、yahooニュースで「大槻ケンヂが還暦になる」とか、「筋肉少女帯の楽曲を題材にした小説集が発売された」とか言うニュースを見て、感慨に耽ったのでその事をつらつらと書き綴ろうかと思う。ニュースに映っていた大槻ケンヂさん(以下:オーケン)は随分老けて見えたけど、相変わらず相変わらずな感じだったので嬉しかったのもある。

筋肉少女帯・大槻ケンヂ、来年“還暦” 66年生まれ・同年代の活躍に「俺も頑張んなきゃな」(yahooニュース)

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ちなみに先に断っておくと、私はオーケンの事も筋肉少女帯(以下:筋少)の事もそんなに深くは知らない。ただ、彼の書籍を何冊か読んだことがある事と、彼の歌った『あのさぁ』という歌に随分救われたことがあるだけだ。

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出会い

もう25年くらい前の話になるが、私は大学生だった。大都会で粋がっていた田舎育ちの若造は、その肥大し過ぎた人間関係を制御できなくなり、ある日全てを失った。いや正確に言うと、私は自分がこれ以上傷付かないよう全てを捨てて逃げたのだ。自分で蒔いた種を自分で回収できない程私は愚かだった。

全てを失った日の夜、狭いユニットバスでいつもの様にシャワーを浴びていると、ふいに涙が出てきた。それまであまり感情で泣いたことが事が無ったので、自分で自分を不思議に思っていると、それは次第に大きくなり最終的に嗚咽になった。流れるシャワーと共に、呼吸すら難しいほどの激しい嗚咽に包まれながら私は「あぁ私は壊れたんだな」と悟った。脱水になるまで数十分も嗚咽を垂らし続けた私は、シャワーを止める力が無い事に違和感を覚え、この時になってようやく「朝から何も口にしていない」事に気付いた。人は強い衝撃を受けると「食事」すら忘れる事を、私は初めて知った。

数日後、私は一人呑んだくれて公園のような広場の端っこのベンチに座っていた。多くの人が目を前を行き交っていたが、全てがグレイに見えた。無心でただぼーっと人の流れを見ていると、一人の同い年くらいの女の子がベンチの隣に腰掛けた。なぜだか分からないが、その時私は彼女へ声を掛けたのだった。

あのさぁ

名前も知らない彼女へ、私は一方的に自分の身の上話をした。訳の分からん男に話しかけられたにも関わらず、「うんうん」を話を聞いてくれた彼女は「カラオケにでも行こうよ!」と明るく言い、私達はなぜかカラオケに行くことになった。筋少を中心とした彼女のチョイスする楽曲は独特過ぎて、私には全く分からなかった。私はとにかく何でもいいから大声を出したくて「ブルーハーツ」の楽曲等を歌った。全然噛み合わなかったが、信じられないくらい楽しかった。

イメージ図

ひとしきりお互いが歌い終わると、彼女は「君に歌ってあげるよ」と言って、オーケンの『あのさぁ』という楽曲を歌い出した。

君が泣くわけが
花粉症じゃないなら
君が泣くわけが
哀しさとかだったら
あのさぁ あのさぁ あのねぇ あのさぁ

どこかへつれていくよ
海へでもいこうかね
逃げるわけじゃないしさ
逃げ出すのじゃなくてさ
あのさぁ あのさぁ あのねぇ あのさぁ

(中略)

他に人がいるなら 俺じゃなくていいしね
ニコニコしているなら
それで俺はいいから
あのさぁ あのさぁ あのねぇ あのさぁ

ー大槻ケンヂ『あのさぁ』より一部引用

なぜかそれを聞いた時、私はまた嗚咽を垂らして泣き始め、それを見た彼女は大変満足そうにしていた。

その日、私は彼女へお礼を伝え、連絡先を交換し、別れた。別れ際、彼女の手首がリスカ(リストカット)痕だらけな事に気付いた。

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ブルーハーツなんて知らない

その後、私達はたびたび遊びに行く仲になった。バイクの後ろに乗せると、彼女はよく『あのさぁ』を歌った。私もすっかり歌詞を覚え、運転しながら一緒になって大声で歌った。

ある日の事、自宅アパートにいた私の所に彼女からメールが届いた。

「私、死ぬの」

以前数回寄った事のあった彼女のマンションへ向かった。彼女は裕福な家の出で、私とは比べ物にならないグレードの物件に住んでいた。オートロックのモニタ越しに彼女が出たのでとりあえず安堵したが、明らかに様子がおかしかった。部屋に入って様子を見ると、どうやら精神安定剤をオーバードーズしているらしかった。恐らく前日に飲み干していて、運よく絶命せずたまたま目覚めたみたいだった。目が回っていて呂律も怪しい。そして私を認識していない。彼氏だろうか、違う男の名で私を呼ぶ。私はすぐに救急車を呼び、一緒に救急車に乗って病院へ向かった。

辺りはすっかり暗くなっていた。病室でベッドに横たわった彼女はまだ朦朧としており、相変わらず私を別の名前で呼んだ。私も疲れ果てており、薄明りの中ベッド横の椅子に腰掛けていた。

イメージ図

「あのさぁ」と私は彼女へ声を掛けた。

「ブルーハーツが『ドブネズミは美しい』って歌ってたんだけど、何でだと思う?」

彼女はぼーっとただ正面だけを見据え、応えた。

「ブルーハーツなんて知らない」

私は構わず続けた。

「きっと、全力で生きてるからだよ」

長い沈黙があった。

彼女が口を開いた。

「うちらが30歳になった時にさ、お互い結婚してなかったらさ、その時は結婚しようよ」

私が「いいよ」と応えた時、遠方から駆け付けた彼女のご両親が病室に入って来た。私は難しい自己紹介を済ませ、その場を離れた。

その日以降、私達は連絡を取っていない。

その後

結局私は20代中盤に今の家内と結婚したし、その後彼女がどうなったのか知らない。「なんとか生きていてくれたらいいな」と、冒頭のオーケン還暦ニュースを見てぼんやりと思った。

ところでその後、オーケンの書籍『リンダリンダラバーソール』という本を読んだのだが、なんともはや私の体験とリンクするところがあって大変驚いたことを覚えている。この度15年ぶりくらいに本棚から引っ張り出して読み返したのだが、やっぱり面白かった。オーケン、愛してるぜ!

ボロボロの『リンダリンダラバーソール』(カバー無し)

気になった方は是非読んでみて下さいね。私はオーケンの書籍が大好きです。

オーケン還暦おめでとうございます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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