
くたくたの体を引き摺って玄関に入った途端、息子が不安の声を挙げた。さっきまでいた「こ」のお子様セットでもらった、黄色いスポーツカーのおもちゃが無い事に気付いたからだ。「勘弁してくれよ・・・」と嘆きながら身の回りを調べるも、どうにもこうにも見当たらない。私はマンションのエレベーターへとんぼ返りし、駐輪場に止めた妻の電動自転車、特に息子が乗っていた後部座席周りを入念に調べた。しかしそれはどこにも見当たらない。明らかな悪意を感じる程、跡形も無く消えてしまっていた。
マンションの自室へ戻ると、最早息子は半分泣き出していた。発育・発語が遅く自己表現が上手くできなかった息子は、その持ち前の声量で「泣く」という最も効果的な不満をぶつけていた。私は溜息交じりに「こ」事、「ジョイフル」の電話番号を調べ、ダメ元で電話を掛けた。
先ずは「忘れ物」として、黄色いスポーツカーが座席回りに落ちていないか尋ねた。
「そういった忘れ物は、現時点ではありません」。
分かっていた。息子を電動自転車に乗せた際、黄色いスポーツカーを「手に持って」いたからだ。そこで私は「どれでも1つだけ選んでいい」おもちゃ箱の中に、色違いの「赤いスポーツカー」もあった事を思い出し、交渉した。
「お子様セットと同料金を支払うので、赤いスポーツカーのおもちゃを買い取らせて欲しい。」
不審に思ったのだろう。受話器の向こうから怪訝な声がしたが、私は簡単に事情を話し、再度懇願した。受話器の向こうは保留音に変わり、代わりに出た恐らく店長さんが返答した。
「お代はいりません。お届けすることは出来ませんが、今すぐ取りに来てください!おもちゃは保管しておきますので!」

我が家は定期的にジョイフルへ行く。もう達者に言葉を操る息子がジョイフルを「こ」と呼ぶことは無いし、お子様セットを頼むことも無い。しかし私は、いつもメニュー表のお子様セットのページを眺めながら、当時を回想する。
ジョイフルへ向かう道中も、どうしても見つからなかった黄色いスポーツカー。
頑なにお代を受け取ってくれなかった店長さん。
赤いスポーツカー片手に、涙を流しながら家路を急いだ自転車道。
心底喜んだ息子の笑顔。
私の頼んだ「塩唐揚げ定食」が運ばれてきた。このご時世500円(税別)は本当に頭が下がる。隣のボックス席の小さい女の子が、「どれでも1つだけ選んでいい」おもちゃ箱を目の前に真剣に吟味している。私はその様子を見て、微笑む。追加で注文したパフェが運ばれてきて、息子が歓声を挙げる。独り占めしたいのか急いで食べ始めた息子に、「一人で全部食べていいからゆっくり食べな」と、私は笑いながら注意する。
誰かに誇るような外食ではない。飛び抜けておいしい訳でもない。
けれど、きっと我が家は、これからもジョイフルへ通い続ける。










