
前編からの続き。新NISA満額分の資金捻出の為、
今住んでいるマンションを売却する。
という結論に至ったある家族のお話、後編です。
経緯(続き)
2024年初夏に私が出した結論にはいくつか根拠もあった。私と似たような境遇にいる(住宅ローンを組みながら夫婦で子育てしている)普通のサラリーマンは日本中に数多くいるだろうから、一例として参考になればと思い綴る。先ず当時の我が家の状況は以下のようであった。
- 私の年収は日本の平均ど真ん中
- 家内は月3~4万円くらいのパート収入
- 住んでたマンションの築年数14年目=住んでいた期間
- 35年変動金利で組んだ住宅ローンの元金は、残り半分+α程度残っている。息子が生まれる前に何度か繰り上げ返済したが、生まれてからはしていない。
- 住居費や食費や光熱費、保険や子供の教育費等、諸々を差し引くとほとんど何も残らない。車なし。(いらないが、実質持てない)
上から詳しく見ていく。
●私の年収
地方都市の中小企業&一人SEなので「頑張れば出世」とかそういうのは無く、年収はもうほとんど変わらない。
●家内のパート
いつか改めて綴るかもしれないが息子は自閉症スペクトラムで、定型発達の子より手厚い保護が必要だった。移住者の為預けられる親族もいない。必然的に家内に正社員は難しく、このパート収入も大して変わらない。共働き前提でマンションを購入していた(実際ペアローンだった)ので、正直この「世帯収入が恒常的に低くなる」は全くの想定外だった。「子供を育てる」という事に対する、私の見込みの甘さ以外に非はない。
●マンションの築年数14年目
住宅ローン減税は終わっている。そろそろ大規模修繕が始まるタイミングであり、物価高もあってじわじわ管理費修繕積立費が上がり始めていた。ローン&諸々の費用を入れると月105,000円~の出費になり、頭打ちの給料で今後も終の住家として住み続けられるのか疑問に思っていた。もちろん住み続ければ更に管理費修繕積立費も上がり続けるだろう。これに年間15万円くらいの固定資産税も乗っかってくる。また息子の特性上、「静かに過ごす」は難しい為、階下の住民に気を遣う生活が続いていた。
●残り半分以上残っている借入元金
正直「まだ」折り返し前かと私は思ってしまっていた。35年ローン組んでいる時点でそんなのは当たり前の話だったはずなのにだ。実際に生活を送っていると返済を続ける残り17年は果てしなく長い。借入時の変動金利は0.975%。ゼロ金利時代も終わり、これから上がるであろう金利とも向き合わなくてはならない。そうしてまで資産価値が下がり続けるこのマンションに投資し続ける意味はあるのだろうか。払い終わった後に残るのは、築30年超の中古マンションと年老いた夫婦(息子は独立している前提)、人口減少で家余りが加速した地方都市だ。その頃にはインフレに伴い管理費等の諸々の雑費だけでも、月6万円はくだらないだろう。
●ほとんど貯蓄できない暮らし
少なくとも子育てをしている今は貯蓄に回せる余裕もあまり無いし、子供が独立したらほとんど間髪入れず私は定年60歳の年齢になってしまう。その後継続雇用で働き続けたとしても、雀の涙であろう退職金と年金+満期まで積立予定だった貯蓄型保険750万円で老後の暮らしを送れるのか。(金融リテラシーが上がった現在は、貯蓄型保険は解約した)

といった具合に、上記どれもこれも悲観的だがほぼ確実に来る未来は、実は数年前から家内とも何となく共有していた。しかし「まあ先の事だし」という、よくある先送りバイアスによって見て見ぬふりをし続けていたのだ。更に付け足すと、お金に関して無知だった為「じゃあどうすればいいのか」という具体的な行動案も全く思いつかなかった。しかしマインドを変えてお金の勉強をし始めた当時、この問題の1つの解を得た。つまりそれが新NISAでインデックス投資をして「お金に働いてもらう」事だった。
私はある晩、意を決して家内と話し合いの場を持った。この見て見ぬふりし続けていた問題と真剣に向き合わなくてはならない。ここ最近の私の様子が以前とは変わったことを家内はもちろん知っていたので、ある程度何かしら重要な事を話すであろう覚悟はしていたらしい。話し合いは多少紆余曲折あったが思ったよりスムーズに終わり、家内は私の提案「マンションを売って新NISAで投資信託を買う」を受け入れてくれた。後は行動を起こすのみとなった。
私たちがマンション売却を選択できた事情
私達が比較的スムーズにマンション売却を選択できたのは、上記以外にも下記事情があった。「家売ろうかな」と思っている方は、ご自身の状況に照らし合わせて参考にしてほしい。
- (移住失敗に備えて)資産価値を基準にしてマンションを購入していたため、リセールバリューが高かった。
- 購入当時はリーマンショックによりマンションが投げ売りされており、底値で買うことができた。
- 上記2点と近年のインフレにより、売却見込み額が14年前の購入額とほとんど変わらず、ローン一括返済後のおつりで新NISAへの満額投資資金を賄えた。
- 実は東京→香川への移住の際もマンションを売却していたので、既に同様の事は経験済だった。なんならその時の方が距離の問題や転職も相まってきつかった。(いつかこの事も書くかもしれない)

その後
マンション売却を決めてから、私達は近所の賃貸戸建てに引っ越した。築40年の古い家だったが、息子が足音等を気にせずのびのび過ごせる事を優先した。賃貸契約にかかる費用やマンション売却までの二重家賃には、満期まで積立終わっていた生命保険を一つ解約して何とか乗り切った。
この一連の出来事の中で、一番辛かったのは息子の反応だった。息子からすれば突然親が、自分の生まれ育ってきたマンションを売って何だか見すぼらしい家へ引っ越すと言い出したわけだ。何でかはよくわからないが決意を固めた両親を見て抵抗しても無駄だと悟ったのだろうか、息子は生後8年間ずっと過ごしたリビングからの景色を眺めながら、涙を流し「寂しいね」と一言だけ呟いた。その瞬間、私も家内も
もう新NISAも老後貧乏もどうでもいいから、このままこのマンションに住み続けようか
と一瞬頭をよぎったが、奥歯を強く噛み締めて何とか耐えた。老後貧乏は結局巡り巡って息子へ迷惑をかけるからだ。
将来息子がもう少し大きくなったら、この時私達夫婦が取ったこの一連の行動の理由を詳しく説明したいと思っている。そしてその頃には「やっぱりあの時行動を起こしていて正解だったね」と家族皆で笑い合えるよう、私は精進し続けなければならない。そう私はあの時の息子の涙に誓ったのであった。