白菊と枝豆
白菊

繋いだ手を離さないように、必死に力を込める。母を真ん中にし、私は左手、姉は右手。母は少し大きな荷物を肩に担いでいる。周りを見渡せば、普段生活を送る上で見た事の無い大勢の人波。信濃川の河川敷。昼の熱気は影を潜め、少しひんやりした空気が汗ばんだ肌にまとわりつく。私達はいつもの場所へ向かう。不規則に視界を横切る蝙蝠を見上げながら、それとは対照的に等間隔に並んだ提灯へ目をやる。「長岡まつり」。

散々歩いて辿り着いたいつもの場所には、ブルーシートを広げた父が既に寝そべっている。挨拶もそこそこに、私達は安堵して靴を脱ぎブルーシートの上に座る。父は寝転んだまま、母が用意していた少ししょっぱめの枝豆を食べ始める。年に一度の、いつもの風景。闇が少し深くなり、周りがブルーシートでいっぱいになった頃、夕闇を切り裂く真っ白い花火が、三輪、咲く。

「白菊だ!」

高揚感を抑えながら、私達は手を合わせる。父は変わらず、寝そべりながら枝豆を食べている。私は、いつもの風景が「いつも」じゃなくなった時代に思いを馳せる。それと同時に、いつもがいつまでも続く事を願う。

長岡花火が始まる。

長岡花火の始まりを告げる「白菊」

信濃川の河川敷を歩く。向かいからくる人の波を避けながら、右手に繋いだ息子の手を離さないよう「ぎゅっ」と握る。嫁は少し離れた後ろを、私の姉と談笑しながらついてくる。姉のまだ幼い息子(甥っ子)は、興奮を隠せず、大きな声を出しながら飛び跳ねるように周りを回る。見上げた先の提灯へ、目をやる。

「日本一の大花火」

「40年前は、日本一なんて言ってたっけなぁ」と私は思う。いつの頃からか、長岡花火は気軽にふらっと行ける花火大会ではなくなった。最後に見たのは7年前。当時はまだ自由席もあったけれど、今や全てが指定席になってしまった。時代の流れ的にしょうがないのだろうけれど、少し寂しい気もする。「日本一」なんて言わなくたっていいのにな、と私は思う。母が用意してくれていたチケットを確認し、指定席に腰を下ろす。幸いにも、その区画の最前列。存分に足を伸ばせる。担いだ荷物を芝生の上に下ろし、寝そべる。父の様だ、と私は気付く。

夕日が沈み少し涼しさを感じた頃、周りの喧騒を切り裂いて、三輪の花火が上がった。

白菊。

私は、脇に広げた枝豆に手を伸ばす。母の茹でた枝豆は、やっぱり少ししょっぱくて、そして美味しかった。「始まるね!」久しぶりの長岡花火に息子も興奮を隠せない。「そうだね」。私は願う。

40年先も「いつも」が続きますように。

長岡花火が始まる。

寝そべりながら見た花火
長生橋のナイヤガラ大瀑布と正三尺玉(花火の幅650m)
復興祈願花火「フェニックス」
フェニックスは幅2kmに渡る超大型プログラム花火。「Jupiter」の楽曲と共に、視界全てが花火に覆われる。
色んな花火があがる
10号&複数個所打ち上げがデフォ

メインの打ち上げ場所が目の前だったので、大満足!やっぱり長岡花火はワクワクするね!

世界中の爆弾が、花火になったら。そしたら世界中がワクワクするのに。

長岡花火の「白菊」(しらぎく)は、新潟県長岡市で開催される「長岡まつり大花火大会」の冒頭などで打ち上げられる、真っ白な慰霊の花火です。

正式名称は現在「慰霊と平和への祈り」10号3発などと呼ばれ、白一色の大輪の花火(尺玉・10号玉)が3発、静かに夜空に咲きます。色とりどりの華やかな花火とは対照的に、静寂の中で打ち上がるのが特徴です。

伝説の花火師・嘉瀬誠次(かせ せいじ)さんが、シベリア抑留中に亡くなった戦友たちへの鎮魂の花火として生み出しました。嘉瀬さんは自身もシベリアに抑留され、生きて帰れなかった仲間に「鎮魂の花火」を捧げたいという思いから、1990年7月にロシア・ハバロフスクのアムール川で初めて打ち上げました。白い菊の花を手向けるイメージで、純白に作られています。

その後、長岡でも採用され、特に長岡空襲の日である8月1日午後10時30分(1945年の空襲開始時刻)に打ち上げられるようになりました。長岡空襲では約1,488人が犠牲となり、市街地の大部分が焼失しました。白菊は以下の3つの思いを込めて3発打ち上げられます:

  • 戦争犠牲者への慰霊
  • 復興への感謝
  • 平和への祈り

長岡まつり大花火大会(8月2日・3日)のプログラム冒頭でも打ち上げられ、大会全体の「慰霊・復興・平和」というテーマを象徴する存在です。嘉瀬さんは「世界中の爆弾をすべて花火に変えたい」と語り、花火を通じて戦争の悲惨さと平和の尊さを伝え続けました(2023年に101歳で死去)

また会おうぜ!白菊!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

遠いけれど、香川県の人も長岡花火は一度は見て欲しい。チケット争奪戦がつらいけれど、高い建物が無いから意外とどこからでも見れます。

多少離れてても大迫力
カラフル!

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