
最近は雨ばかりでなかなかランニング出来ないのですが、そんな中Audibleで聴いたお勧め本のご紹介記事です。Audibleでも実際の本でも、本選びのご参考にして下さい。
今までのAudibleお勧め本のご紹介記事はこちら。
『カフェーの帰り道』 嶋津輝
東京上野の、往来の少ない通りに佇む「カフェー西行」で働く女給達の物語。時代は大正~昭和初期、太平洋戦争後まで描かれる。当時のカフェという場所の文化的立ち位置も興味深く拝聴させてもらったが、何せこの女給達一人ひとりのエピソードがどれも秀逸。うまく言えないが「生きている」と思える、生き物が持つ確かな生気を感じ取ることができる。
物語はそれぞれ女給達の視点で語られる短編集。どの女給のエピソードにも当時の日本を取り巻く倫理的価値観、そして迫りくる戦争の足音が、痛みと共に彼女たちの人生に影響を与える。特に私は、女学校出身で少しプライドの高いセイの物語が深く心に響いた。当時の周りの女性たちより比較的高学歴だったセイは、勝気な性格とがっしりした体格の女性。カフェー勤めをしながら小説を書いていたが、そちらはあまり目が出ず。けれどこの「文章にして残す」という行為が、物語に彩(いろどり)を与える。
セイは他の女給の視点に立つと少し鼻につくタイプの女性として映るが、視点が変わると印象も変わる。セイにはセイの理由があり、プライドがあり、希望があり、けれど受け入れざるを得ない諦観があり、不器用な恋もある。そしてそれは100年前の人々みんなが共有していた人生でもあるし、今を生きる私の人生にあったものとそんなに違いが無いようにも感じる。大正~昭和初期は世の中が劇的に変化し続けた「激動の時代」と言い表せる時代だけれど、その時代時代の「今」を生き抜いた人々が確かにいたのだと、そんな当たり前のことを強く感じた。
改めてだけど、戦争へと突き進んだ当時の日本の市井の人々の苦しみは、読んで(聴いて)いて心が痛んだ。竹久夢二の絵に出てくるような美人女給だったタエコが、戦地にいる一人息子に願った言葉が心に刺さった。
「日本が戦争に負けてもいいから、とにかく無事に帰ってきて欲しい。」(意訳)
母ならば誰もが願った事だろうけれど、当時の日本は上記本心を「万歳」へ変えて我が子を送り出すしかなかった。心の中で泣きながら。戦地に送り出された若者も、建前上は「お国の為に武勲を立てます」と検閲に引っかからない手紙を書きながら、ただひたすらに郷里の母の無事を祈った。
私は鹿児島県知覧にある知覧特攻平和会館を訪れたことがある。そして、そこに遺されたある特攻隊員の手記に涙した。
「お母さん 大元気で」
今の日本があるのは、当たり前ではない。彼ら、今の私達と何ら変わらない「普通の人々」の犠牲の上に成り立っているのだ。
拝聴後はなんとも言えない温かな気持ちに包まれる本作。直木賞受賞作という事も納得の良作でした。
『桐島、部活やめるってよ』 朝井リョウ
『イン・ザ・メガチャーチ』『どうしても生きてる』に続いて拝聴した朝井リョウさんのデビュー作。タイトルに特徴があるので出版当時耳にしたことはあるのだが、未読だった。まあ当時は香川移住のバタバタで全然読書をしなくなってた時期だったのでしょうがないです。。
舞台は高校。従って、登場人物たちは皆高校生や中学生。うーん若い。実に若くて、不器用で、痛くて、そして面白い。横文字は好きではないが「モラトリアム」と言うべきか、とにかくまあ十代中盤のあの何とも形容しづらい感情がうまく表現されている。朝井さん、デビュー作でこれは流石が過ぎるわ。
男子バレーボール部の部長・桐島が部活を辞めた事で、周りの生徒たちの関係が微妙に変化していく。面白いことに、桐島はこの小説では一切出てこない。あくまで「桐島が部活をやめた」という事を話題に挙げる周りの生徒たちの物語で、章毎に語り部が変わる連作短編小説仕様。
風が吹けば桶屋が儲かる・・・は古いか、今で言うところの「バタフライエフェクト」。最初は直接影響のある男子バレーボール部の生徒の視点から物語は始まるが、「桐島が部活をやめた」という事が、一見すると無関係の生徒にも僅かながら影響を及ぼす様が何とも面白い。そう、この年代の少年少女にとって同級生の大きな決断というのは、遠かろうが何かしら影響を受けるんですよね。グループ形成のヒエラルキー、無い物ねだり、イケてるイケてないのマウント合戦、素直になれない気持ち、自分の感情がよく分からない戸惑い、最早逃げられない進路選択、とにかく漠然とした未来・・・。分かります~(遠い目)。
特にミカの物語がぐっと来ました。いやこの子だけ境遇が強烈すぎるわ。けれど周りの生徒たちから見ると、この子の抱えている痛みは見えない。いやむしろ周りから見ると、ただの「かわいいイケてる子」。弱さを見せるわけにはいかない。だからこそ余計つらい。彼女が気兼ねなく「ハヤシライスが食べたい」と、母に言える日が来たらいいなと心底願った(読めば分かる)。
その時代時代の空気感を表現するのが上手な、朝井さんらしい良作。15年前の小説なので、作中出てくる「チャットモンチー」も懐かしい。好きだったなぁチャットモンチー。だっていつも全力なんだもの。まあ当時私は既に成人だったけれど、嫁と向かった新婚旅行の機上で流れていた『Last Love Letter』を、私はきっといつまでも忘れないのだろうと思う。最高でした。
是非皆様も本書を読んで(聴いて)、遠い日の青春を味わって下さいね。
『もういちど生まれる』 朝井リョウ
勢いそのままに、続けて拝聴した朝井リョウさんの、これまた連作短編集。『桐島、部活やめるってよ』が高校生中心の物語に対して、こちらはその大学生バージョン。何か中心となる話題があるわけではなく、本当に大学生のリアルな日常を、登場人物の様々な視点から描く。こちとら何の予備知識も無く聴き始めるので、「あっこれも短編集なのね」と気付くまで時間がかかる。順繰りに複数視点が変わりながら物語が進む小説もある(『イン・ザ・メガチャーチ』がそうだった)ので、判断が難しいですわ。。
聴いていて思うことは、やっぱり他の朝井作品と同じくその時代を切り取るうまさ。高校生とは違う大学生ならではの感情を、本当にうまくとらえている。そう、大学生って一人暮らしとか、誰に咎められる訳でもない自由な恋愛とか、今まで出会ったことのないような新しい交友関係の広がりとかで、「個性」が一気に多様化するんですよね。なんと言うかいきなり大海に放り出された蛙の様な。私自身の事を振り返ると、その蛙が「俺は蛙じゃない!」って大海で必死に足掻く様が、私にとっての大学生活そのものだったような気がします。とにかく動き続けて、馬鹿をやって、無茶をして、それが底抜けに楽しくて、時々苦しくて、そして愚かでした。けれどその全てが、「今」の私を形作った一つ一つのかけがえのない欠片だったんだなと、今になると分かります。もちろん当時の私には、そんなこと分かる由もないのですが。
登場人物たちの「今」はもちろん大学生活です。馬鹿をやって、無茶をして、楽しんで、傷ついて、偽って、強がって、寂しくて、やっぱり好きで、だけど嫌いで、みんな違っていて。そのどれもが本当に輝いている。
「追い風が吹いた。本当は吹いていないかもしれないけど、そんな気がした。」(意訳)
印象的なフレーズと共に、コズエは「コズエ」として飛んだ。
「ねえショウタ、私を『凄い』って言ってよ。高校生の時みたいに。」(意訳)
ハルは鳴らない電話に願う。
不思議なことに、当時私が心から願った言葉、そして誰かに言われた言葉のいくつかは、今も鮮明に覚えている。その言葉が発せられた時々、私はきっと重大な決断を下しそしてその都度確かに私は新しい自分に変わっていったのかもしれない。まるで「もういちど生まれた」かの様に。
もう私は大学生の時の倍以上の人生を歩んだけれど、この作品の放つ青臭い輝きに魅了された。是非多くの方にお読み(お聴き)頂きたい一冊。
まとめ
朝井リョウさんってすごいよね(いまさら)。本は本でいっぱい読んでるのですが、なぜか感想文は聴いた作品の方が得意という不思議。。是非皆様もAudibleでいっぱい聴いてみて下さいね。
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